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2025年6月22日、学林にて「世界宗教—ユダヤ教との対話」と題する特別講座が開催された。講師としてお迎えしたのは、Religions for Peace(世界宗教者平和会議)ラテンアメリカ委員会事務総長であり、正統派ユダヤ教徒でもあるエリアス・シュチトニスキ師。シュチトニスキ師は、南米を中心に諸宗教間の対話と協力を推進し、環境、貧困、人権などの地球的課題に宗教の立場から取り組まれてきた、まさに現代のユダヤ的リーダーである。
冒頭、杉野恭一学長は、「エリアスさんは、ユダヤ教徒としての揺るぎない信仰と、平和のための宗教協力に捧げる深い献身を体現しておられます」と紹介し、「世界各地の対話と共生の現場に身を置いてきた方の声に、直接学ぶこの機会は、私たちにとってかけがえのないものです」と歓迎の意を表した。
講義は、シュチトニスキ師の自伝的な歩みから始まった。アルゼンチンの軍事政権下で少数派としてのユダヤ人として育った少年時代、ユダヤ系修道女との出会いが、宗教間対話への関心を育んだこと。カトリックとユダヤ教の関係を一変させた第二バチカン公会議「ノストラ・エターテ」の影響。そして現在、ラテンアメリカにおける対話と連携の推進へと至る道のりが、静かに語られた。
続いて、ユダヤ教における信仰実践と倫理観についての説明があった。シナイ山における啓示を起点とするトーラーの授与は、「自由と責任」を基軸とするユダヤ的倫理の根幹であり、これは安息日(シャバット)や食の規律(コーシャー)といった日常の中での霊的な訓練にも深く表れている。
また、ユダヤ教における時間の神聖性、家族の純潔の教え(タハラット・ハミシュパハー)などについても具体例を交えて紹介され、「日常こそが神聖の舞台である」というユダヤ教の精神が伝えらた。
講義の後半では、歴史における迫害と離散の経験、近代における同化と自己喪失の危機、そしてシオニズムの興隆と現在の葛藤など、ユダヤ民族の苦難と希望の歴史が語られた。特に、今日における反ユダヤ主義の再来と、その中で宗教的対話が果たす役割について、「対話は単なる寛容ではない。それは記憶と真実、そして人間の尊厳への共通の応答である」との言葉が印象的だった。
講義後、学林生との対話の時間では、「宗教とは何か」「信仰とはどう生きるものか」といった根源的な問いが交わされ、国や宗教を超えた人間の尊厳に向き合う対話が広がった。学生たちは、異なる信仰に生きる人から学ぶことの力強さを体感し、自らの生き方を見つめ直す貴重な機会となった。
最後に杉野学長は、「宗教は、私たちに『何が善いことか』を教えるだけでなく、違いを超えて『どう共に生きるか』を問いかけてくれます」と語り、「あなたが信じる希望、その一歩が誰かの救いになる。恐れず、目をそらさず、世界と出会ってほしい。そして、信仰とは『ともに生きる』ための誓いであることを心に刻んでほしい」と学生たちに呼びかけて、本講座を締めくくった。
シュチトニスキ師の静かな語りと深い叡智は、学林生一人ひとりの心に種をまいた。その種がどのように芽吹き、平和と共生の未来へとつながっていくのか、これからの歩みに期待が寄せられる。